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音は空間に導かれる

ニューヨークに住むアーティスト  シノハラ楽さんの作品 [ INNER CRUSH SCENE ] という新聞に原稿を書きました。
そしてこの新聞は2005年5月9日早朝西荻窪周辺に配達されました。

音は空間に導かれる                          平石博一 

 僕が音楽を作り始めた最初のころ演奏家を空間的に配置して空間音楽をするという欲求が強くあっていろいろ
実験していたのです。東京音楽大学にほとんど円形に近い形のホールがあってそこで空間音楽を実現させても
らったのも思い出深いもののひとつです。楽譜は数字譜。特殊?そしてチューニングのヴァリエーションがある
とかリズムが不確定にされているという仕掛けがありました。それはその頃考えていた同時とは何?ということ
を具体的にして考えてみようというものでした。作品のタイトルが端的にそれを示しています。What'sSynchronize?
 楽器編成は少し不確定で、その時は2人のKeyboard奏者が会場の中央に位置してそれを囲むように聴衆が座
り、一番外側に6人の打楽器奏者が会場を取り囲むように位置し、6人のViolin奏者がKeyboardsとPerc.の中間位
のところで円形に位置する。ということは聴衆の中に座っていることになります。
 打楽器はビートを刻んでシンクロナイズすることに集中するのですが他の奏者はずれようずれようと演奏しま
す。結局は打楽器のビートに大筋は規定されているのですが。そしてシンクロナイズしなければいけない打楽器
奏者が一番シンクロナイズが難しい位置にいるという矛盾を内包しています。各打楽器奏者は一番遠い位置にい
て音を聞きながら演奏すると遅れてしまうということがあるので目でビートを確認しながら演奏しなければなら
ないという事があるのでした。質問の答えを求めるというより質問を宙吊りの状態で提示するというような事を
考えていました。
 東京芸大の学園祭で管打楽器のオーケストラ、つまり大編成の吹奏楽ですね、のために新曲を書くことになり
奏者が聴衆を取り囲むように位置するように指示したスコアを書いたのも思い出深いものです。これは前年に書
いたPrismatic eye (1977)for string quartet and 4 trombonesの拡大版のようなものでWalking in Spaceとい
うタイトルをつけました。これは聴衆にとっても奏者にとってもかなりとらえどころのない音楽だったようで
す。宇宙遊泳という感じでいえば間違いではなかったかもしれませんが。演奏者はあまりにもシンプルな楽譜を
見てあっけにとられたようで、私達はいったい何を演奏するんだ、この楽譜は音楽じゃない!という感じがみん
なの顔にありありと出ていたのでした。
 しかし不思議なものですね。超ミニマルな音楽を書いていたこの頃の僕の日常は歌謡曲や演歌、ポップミュー
ジックのまっただなかにいたのです。写譜の仕事をして、それを持ってスタジオに入り棒振りをするという日常
だったのです。棒振り=指揮者、その仕事を代棒と呼んで呼んでいました。レコーディングスタジオでの指揮者
ですね。作曲家や編曲家の代わりに棒振りをするということです。その仕事をやらせてもらう事で僕はほんとに
勉強になりました。
 一度こんなことがありました。まだ8トラックマルチレコーダーが主役だったころダビングの回数をそんなに
多くやることは出来なかった時代。布施明の「白いラブレター」という外国曲に日本語の歌詞を付け直したカ
バー曲の録音でした。先にリズム楽器、管楽器の録音をしてそのあと弦楽器を録音したのですが、一度ブレイク
して音がまったく無くなって少し長い空白があって先に録音した音にぴったり合わせて弦楽器がジャーンと入る
ように棒を振らなければいけなくなったのです。これは今だったらリズムマシンとかコンピュータを使ってカウ
ントをもらうことが出来るので何の苦労もない事。リズムマシンとかに頼らないで録音してた時代ってかなり人
間的な音楽を作っていたという気がします。スタジオミュージシャンなどはジャズ系の人からロック系の人にど
んどんシフトされ始めた時代でした。そう、音楽がどんどんタイトなものに進んでいました。楽譜を作る必要が
あってついこの前、筒美京平さんの Sexy Bus Stop を聴いてその頃の状況をいろいろ思い出しました。タイト
なこの Sexy Bus Stop には尺八や琴がうまく取り入れられていて筒美京平さんはなかなか面白い事をやってい
たんですね。僕の作品の方もだんだんタイトなものを求めるようになって来ました。コンピュータの力を借りて
いろいろな事が出来る様になってからますますその傾向は強まったと言ってよいでしょう。
 プログラムを書けない人にとってはただの箱でしかなかったパソコンもだんだん進歩して、僕にもコンピュー
タが使える時代がやって来て事情が変わりました。そんな頃MIDI音源による空間音楽のパフォーマンスを実現し
ました。ローランドの研究所で働く友人の助力でローランドの機材を無償で借りる事が出来たのが実現した原
因。16個のスピーカーとたくさんの音源やロングコードなどを用意してもらえたのです。そう16チャンネル
再生用の音楽データを作ったのでした。かなりディジタルでタイトな感覚の音場を作り出すことが出来、素晴ら
しい面白い体験をしました。その後のコンピュータ環境改善のお陰でコンサート会場ではなくギャラリーで8つ
の独立した音源とスピーカーでパフォーマンスするとか、吉祥寺に臨時に設置されたフラードームでのパフォな
ど貴重な体験をしました。
 そしてほんとに最近ALEX KUKAI氏とのコラボレーションを新宿の小さなギャラリーでやったのですが、ファッ
ション系のBEAMSというお店の一角であるということが僕の作り出す音楽の形を決めたと言ってよいでしょう。
普通に営業しているお店でのパフォーマンスにふさわしい音にしようという意識が働いたのです。そしてALEXは
ラップをするのでそのためのヒップホップトラックを日本の楽器、三味線を主体としたものにしようと考えたの
です。ALEXは血筋は日本人なのにニューヨーク育ちで普通の日本人とは少し違うということが引きがねになって
るのですが、僕のニューヨークでの体験も背景にあります。ウイリアムズバーグにあるGalapagosで僕の音楽が
演奏された時たしか店のオーナーだったと思うけれど僕の音楽の中で一番日本的な響きのするものを「あれはい
い音楽だね」というようなことを言ってくれたのです。そしてまた別の機会NYに住む作曲家が僕の作品のなかで
一番雅楽的でスタティックな音楽を「あれはすばらしいね」と言ってくれたのです。僕としてはグローバルな無
国籍的な音がするものをもっと展開したいと思ってるのですけど日本人であるということを強く思い知らされた
体験だったのです。やはり日本人である事の自己証明をしなければいけないのだろうか?ということです。筒美
京平さんのタイトなポップに尺八を挟み込むというのも結果的に日本人であるということの証明になってるので
しょうね。
 パフォーマンスする場所は僕が探して決めたところではなくていつも与えられた場所でした。その場所特有の
条件というものが僕の作り出す音楽に影響を与えていると言ってよい気がします。「空間=場」が僕の音楽を導
き出すというわけです。この前のBEAMSがそうだった様に。そういう意味で僕がパフォーマンスしたい場所がい
くつかあるのですけど、そのひとつがニューヨークのグッゲンハイム・ミュージアムのらせん状にギャラリーが
配置されている空間でのパフォーマンスです。その場合空間の中心に人が位置することが出来ないので、これは
明らかに僕は違う音楽を作らなければいけなくなるなと思うからです。違った空間でやるということで違った音
が生み出されるということは非常に楽しい幸せな事なのです。

「5日毎 当日発表 第2期」10/20 平石博一(音楽家)

詩人の松井茂さんが編集をしている「5日毎 当日発表」というメルマガに原稿を書きました。400字という制限。以下そのメルマガの主部分を転載しました。

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「5日毎 当日発表 第2期」10/20 平石博一(音楽家)
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ゲスト:平石博一(音楽家)
http://cat.zero.ad.jp/hiraishi/
8月の暑い日の昼過ぎ。生まれて初めての広
島だった。山に囲まれ小さな大都市が箱庭の
ように存在しているという感覚に陥る。目的
地は旧日本銀行広島支店。そこは原爆ドーム
にほど近い。被爆後殆ど無傷といえる形で残
った歴史的建造物。私は1階の営業フロアだ
ったスペースに8個のスピーカーとアンプ、
コンピュータと音源類をセットする。そして
用意していたMIDIデータを演奏。8つの
スピーカーはそれぞれ別のパートを奏でる。
一つのスピーカーは一人の演奏家とみなされ
る。その音の立体は以前から私の求めていた
ものだったと再確認。音の立体の中に入る。
それは至福の時。翌朝6時に起き窓を開ける
といくらか冷りとした空気と光を感じる。こ
れもまた小さな幸せ。昼までに15分程のデ
ータを制作。時空にディザインされる音。ア
イデアは単純だが何故か実現するチャンスは
少ない。空間音楽。私にとってステレオは平
面。立体へと再び歩み始めることになった。

ナ・ヒョーシン「作曲家の旅日誌」
同人:三橋圭介(音楽評論家)翻訳
http://www.hyo-shinna.com/Writings/writings.html
http://www.ne.jp/asahi/suigyu/suigyu21/mike/hyo-shin.html
カヤグムの音と木管楽器のグループにバラン
スを与えようともしなかった。また演奏者に
楽器の性格を変えることを強要しないし、す
べての音を混ぜあわせるために、音を大きく
したり、ソフトにしたり、明るくしたり、ぼ
んやりさせたりすることもない。楽器がほか
の楽器と比較して、エキゾチックということ
はあり得ない。それらは世界に住む人々のよ
うにすべてちがい、すべておなじだ。世界は
坩堝ではないのだ。
 「ミューズ(詩女神)」
         アンナ・アフマートワ
夜、彼女を待っていると
人生は立ち往生して身動きが取れないように
思えた。
名誉とは、若さとは、自由とはなにか、
手に粗末な笛もった親愛なる客とくらべる。
そして彼女は入ってくる。ヴェールを脱ぎ捨
て、わたしをじっと見つめる。
彼女に尋ねた。「ダンテに地獄篇を口授した

同人:松井茂(詩人)
http://www11.u-page.so-net.ne.jp/td5/shigeru/
2002年11月6日東京。毎日新聞朝刊よ
り予想最低気温最高気温。本日7度15度。
7日8度17度。8日12度19度。9日9
度13度。純粋詩2行を書く。HP更新。2
002年11月7日東京。毎日新聞朝刊より
予想最低気温最高気温。本日7度17度。8
日12度18度。9日10度13度。10日
4度14度。純粋詩1行を書く。2002年
11月8日東京。毎日新聞朝刊より予想最低
気温最高気温。本日10度14度。9日10
度13度。10日5度15度。11日10度
20度。純粋詩6行を書く。2002年11
月9日東京。毎日新聞朝刊より予想最低気温
最高気温。本日10度16度。10日4度1
4度。11日10度20度。12日12度1
7度。純粋詩6行を書く。2002年11月
10日東京。毎日新聞朝刊より予想最低気温
最高気温。本日7度16度。11日10度2
0度。12日12度18度。13日7度13
度。純粋詩6行を書く。□□□□□□□□□

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「5日毎 当日発表 第2期」10/20

発 行:2002年11月11日
編集人:松井 茂
発行人:三橋圭介
連絡先:shigeru@td5.so-net.ne.jp(松井 茂)

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